平山亮一庭園

優れた母ヶ岳借景庭園

庭の入口門を入ってすぐに母ヶ岳と亀甲城山を見せる借景庭園。領主の来訪時、門を潜ってすぐ、綺麗な母ヶ岳と亀甲城山を見せ感動してもらう。その一点に集中し作庭されている。この庭も薩摩藩の剣術、示現流のように鑑賞者に感動の一撃を与える庭である。大刈込が表現するベタなぎの静かな東シナ海の先に山があり、山の上に空があるので落ち着く。連続しているようで連続していない山と天空とを集中させ見せる庭なので「易経33天山遯」山に登れば天はあくまで高く遠くに離れていく。いくら追いかけても天の変化は変えれるものでない。天の変化に合わせて生き、時流に乗り適切な行動をすべきと示している。雲の形、色、速度、天空の変化をゆったりとした気持ちで観て気象を読み、時代の変化に思いを巡らせる庭だ。知覧七庭園の中で唯一、当邸宅は2.7㎞東北の母ヶ岳(標高517m)にピッタリと向いている。しかし佐多直忠庭園と同じく庭は邸宅の西北側にあり、邸宅内からは庭を介して母ヶ岳を遥拝できない。やはり領主の邸宅庭園に遠慮したものだ。特記すべきは門前の通り、イヌマキの大刈込の生垣通りが母ヶ岳を遥拝する方向に伸びていること。よって庭の入口から見た母ヶ丘は通りに沿った大刈込(生垣)のラインと建屋のライン、両サイドのラインが共に母ヶ岳山頂に向かっているので、目線が自然に母ヶ丘山頂に向かう。庭入口から母ヶ岳山頂を中心として見せる構造の庭なので、当然、入口から見る庭が一番美しい。母ヶ丘を借景としている正面(奥)のイヌマキ大刈込を略水平とし、サツキの大刈込を穏やかな形にすることでベタなぎを表現し、イヌマキ大刈込とサツキ大刈込との間のツバキを大きな丸刈りとして母ヶ岳と亀甲城山を大きく見せ、サツキの大刈込全体形状をゆるやかな波状にし、奥になるほど低くなるように刈り込むことで母ヶ岳までの距離を感じさせている。サツキの大刈込手前に置いた多数の切石の間隔を調整することで、逆に母ヶ岳がこちらに向かってくるように、そして切石の重量感で母ヶ岳をより高く感じさせている。庭に掘りこみや池を設けず借景山を大きく高く見せ、庭と山との間にまるで大きな谷があるように思わせ、山に集中させて見せることで山を大きく感じさせる技法は現代庭園においても取り入れることができるはず、これからの日本庭園のお手本になると思った。母ヶ岳、亀甲城山とその上空を見せるシンプルな借景庭園、樹木の刈込と切石だけで庭を成立させている。庭の中心石の代わりに庭の外に樹木一本を立てている。空の演出を見せる点で、空の変化を単純に楽しむ西洋庭園に似通っているが、庭と山との間に谷があるように思わせる。或いは庭の灰色の砂を池に見せる点で大きく異なる。庭の東は平坦な茶畑、視界の妨げとなるものがなく、優れた借景庭園の源。知覧七庭園はそれぞれが特徴ある庭で、同じものが無いが、切石、上面が平らな石をうまく置き、そこに盆栽を置いて楽しむところは共通している。京都の庭園のように手を入れ続けているのとは異なり、江戸庭園をそのままの姿で維持されている意義は大きい。