マイソールホテル

Radisson Blu Plaza Hotel Mysore

夜遅く南側の部屋に入ったので外の風景を見なかった。朝起き部屋のカーテンを開くと素晴らしい風景が開けていた。ホテルは南南東に向き、部屋の正面にチャームンディの丘がある。丘頂上は当ホテルから3㎞先、ホテルの庭は部屋の足元、一階レストランの南南東に展開している。庭はチャームンディの丘と競馬場を借景とし、瓢箪型プールと芝生からなる単純なもの、庭の外周を大刈込で囲っている。借景の競馬場には大木が茂っている。

庭のプールが、部屋の窓から望むチャームンディの丘、丘の頂上、競馬場の風景を引き立てている。プールでは二人の少女が泳ぎ、競馬場には複数の馬が走っている。静の風景の中に動がある。うまい取り合わせだ。チャームンディの丘頂上はヒンドゥ教徒の聖地で、ヒンドゥ寺院の塔がある。借景としては申し分がない。プールの底に明るい色のブルータイルを敷いているので足元が明るく軽やか、丘の上にも明るい青空が広がる。両者に挟まれたチャームンディの丘が青暗く沈んでいるが、丘の上下が明るいので瞳孔が小さくなり、青黒い丘を凝視させられる。凝視すればするほどに丘がより深く沈む。比叡山を見せる小堀遠州作、京都 正伝寺(しょうでんじ)「獅子の児渡しの庭」と同じ技法だ。正伝寺ではを白砂/白壁と明るい空で比叡山を挟み込み、比叡山を青黒く沈めていた。当ホテルの庭もプールのブルータイルと明るい空でチャームンディの丘を挟み込み、チャームンディの丘を青黒く沈めている。更にプールの水は深さを感じさせるので、丘をより高く見せる効果を発揮している。庭単体で見ても陰を表現するプールの水と、陽を表現する太陽光を受けて光る芝面、タイル面とが陰陽を組み合わせた太極図のようでおちつく。苦言になるが、ホテル建屋の向きがチャームンディの丘の頂上にある聖なる塔にピッタリと合っていない。すこし向きがずれている。

ホテルの向きを聖なる塔にピッタリと合わせておれば、更なる聖なる気を無意識のうちに部屋へ取り込めるはずだ。庭の外の道路に沿った競馬場の塀を鮮やかな白に塗り替えると、チャームンディの丘が更に青黒く沈みクリアに見えると思った。チャームンディの丘、緑豊かな競馬場を借景に取り込んだ優れた庭だった。

陽射しの厳しいインドにプールと芝面の組み合わせは映える。植物の葉は大きく厚く、大木が多いので、借景庭園が豪快になる。月夜はチャームンディの丘がどのように見えるのだろうか。夜、部屋から外の風景を見なかったことを悔んだ。