田尻歴史館庭園

東南に庭園を持つ洋館と和館、海岸が近くにあることを感じさせる松林、和館には枯山水の沢池が配されている。明治から昭和初期、易経が流行したが、自己修養を唱える易経「47泽水困」困卦を表現するこの形の枯山水の沢池庭は日本各地、かつての企業家宅に残っている。水は人の制御力を越えた大きな力を持ち、豪雨で河川が氾濫すると多くの家屋が浸水被害を受け、津波の巨大波は海岸を襲い家屋を流し、海上暴風雨は船舶を飲み込む。水中に水圧があり、素潜りで潜れる深さは知れている。逆に水が干上がると人の生活は脅かされる。易経の四大難卦は成長の後に訪れる水涸れの「47泽水困」困卦、父母が交わり生じた長子が羊水の中で創生の苦闘をする「3水雷屯」屯卦、水が止まることなく困難を指す穴に落ち続けるような水また水の「29坎为水」水卦、水と山に挟まれて行き場を失い苦しみ悩む「39水山蹇」蹇卦、これ以外も水に関わる卦は困難な状況から退く方法を教えている。企業が伸びるべき場所を間違い、不祥事を起こした場合、自力で問題を解決するしかなくなる。企業が伸び、企業地位が向上していたころには顧客、関係会社が尊重してくれ、話を信用してくれていた。その時の態度で顧客、関係会社と向き合うと、信用を失い、問題解決が更に難しくなってしまう。そこで企業人は自らの地位を下げ、へりくだり、判りやすく状況説明をするも、顧客、関係会社は素直に話を聞いてくれず、信用を得られない。そこで改善内容を公開し、自らを磨く努力をしている姿を見せ、控えめな発言をすることになる。企業人は困難を自己修練のチャンス到来と捉え、身を綺麗にし、口先だけの解決をせず、企業が培って来た正しい道を歩き続け、根本的解決を図らなければならなくなる。もし、口先だけ、不正な方法で解決を図れば更なる深みにはまり、沼に足をとられ、あせればあせるほどに、動けば動くほどに、沼底に向かって沈んで行き、自らの力で脱出できなくなってしまう。そこで、どこまでも正道を堅く守り、正道を謙虚に歩き、問題解決への方向を間違えず、硬い意思を持ち、ゆっくりと前進し続け解決しなければならなくなる。解決に至れば社員全員で悦びを得ることになる。困卦が教える企業が困難から脱出する方法は、全社員に解決を果たすまで余計なことをしないように指示し、社長が社内外の意見を聞き、次に各現場や販売最前線を臨監し問題点を浮かび上がらせ、それらを基に取締役会で討議を重ねつつベテラン社員に問題解決に当たらせ、最後は社長が口で解決する。解決すれば企業は再びチャンスを掴め、解決への努力が無駄でなくなり、顧客に引き上げてもらうことで名声が回復する。さて、困を表現した枯山水庭は困ったことに対峙し続ける寺院の庭に相応しいと思うが、どうなのだろうか。困を表現した枯山水庭の持ち主で、今も財力と地位を保ち続けている企業人子孫は少ないように思うが、実際はどうなのだろうか。明治、昭和時代前期は天皇が先頭に立ち戦争を指示し、戦争景気を続けていた。多くの家で天皇陛下の肖像画や写真を掛けていた時代である。庭に下へ下へと向かう水を見せないことで、企業人は天皇陛下に逆らわない意思表示をしていたのではないかと思った。