ガーデンミュージアム比叡

比叡山の二つの山頂、大比叡と四明岳は直線475m離れている。大比叡はガーデンミュージアム比叡駐車場の東、駐車場からは小高い丘のように見える林の中にある。四明岳は駐車場の西側、ガーデンミュージアム比叡、花の庭にある。古来、比叡山は信仰の山であり、大坂市内の見通しが良い地点からも拝むことができる。その頂上へ導く道標が全くなく、聖地の扱いとなっていないことに驚いた。大比叡から直線460m東北には東塔があり、その線を更に300m程伸ばせば根本中堂に至る。大比叡から直線923m東南には千日回峰行の拠点、無動寺明王堂がある。11月3日、多くの高僧や参拝者が明王堂へ向かう姿を見て、日本人の信仰心の深さを感じた。京都の代表的な信仰山は比叡山と愛宕山。愛宕山頂上には愛宕神社があるが、比叡山の二つの山頂に神社はない。睡蓮の庭から見える大比叡はスギなどの大木に包まれ宗教的な雰囲気があるが、大比叡に行ってみると信仰山の頂上と思えないような小さな標識が置かれているのみだった。花の庭にある四明岳には山頂標識が置かれているのだろうか。標識らしきものに気が付かなかった。比叡山の凛とした雰囲気を作っているスギ、ヒノキ、マツ、モミを駐車場内にも植樹し、育て、信仰山の雰囲気を山頂付近にも作ったら良いのではと思ってしまった。古来、日本人の信仰対象は山岳、盤座、洞窟、水源、瀧、島、巨木など自然物であり、古墳も山や島に似せ作られている。信仰山の代表は富士山。近畿を見ると、大神神社に本殿がなく、参拝者は拝殿から三輪山を拝むようになっている。山岳信仰が神社信仰へと移行する姿だ。大神神社HPでは三輪山のことを「古来、大物主大神が鎮まる神の山として信仰されている」と紹介している。近年まで三輪山は禁足山だった。比叡山の麓、日吉大社にはいくつかの盤座が見られ盤座信仰が神社信仰に変化したことが見て取れる。滋賀県、御上神社はイザナギ、イザナミを埋葬したと伝わる三上山を神体山として祀っている。金剛山葛木岳は神域、立ち入ることが出来ない。御蓋山を含む春日山は春日大社の神体山と見なされ、木の伐採、殺生が禁じられ原始林となっている。天香久山、畝傍山、耳成山の大和三山に囲まれた地域に都が設けられた歴史がある。京都に遷都された際、奈良に習い船岡山、吉田山、双ヶ丘に囲まれた地域に都が設けられた。愛宕山頂上付近には愛宕神社がある。上賀茂神社は神山の麓にある。皇大神社には日室ケ嶽遥拝所がある。伊吹山頂には日本武尊の石像がある。大峰山脈は修験道の聖地。奈良、大阪に山や島のような大型古墳が多数ある。奈良、大阪にある多くの古墳巡りをしたが、駐車場探しに苦心する。私が一番美しいと思う宝来山古墳(垂仁天皇 菅原伏見東陵)も交通の便を考えると足が遠のく。古墳には拝所が設けられているが、故意に参拝しにくくしているのではと思いたくなる。仏教伝来以降、それまでの山岳崇拝が神社信仰へ移行した歴史があるので、信仰されている山岳の頂上は大切にすべきだと思う。山岳信仰、神社信仰の根本は祖先崇拝であり、祖先が神となり山岳や神社に宿ると信じられて来た。正月には山に宿る神となった祖先が家に下りて来てマツに宿る伝え通り、門松を飾る習慣は続いている。ガーデンミュージアム比叡には多くの陶板名画が飾られ、それぞれの名画付近は画の風景に似せた庭となっている。山上の広い空を持つ欧州風の庭なので、軽快でリズミカルだ。睡蓮の庭は山上にある沢池庭、風景は大きく異なるが東大寺大仏殿、御蓋山、花山など恵まれた借景を持つ子規の庭の沢池を思い出した。意味するところは「若い男女の交わりのように先入観なく、見栄も欲もなく、素直な心で電撃的に、一瞬に相感し合う」ことなので、デートコースにピッタリだ。四明岳がある花の庭は伝統的な欧州庭園で、屋根の無い、低い壁の家の中から大空の雲の流れを眺める形となっている。「火が燃えると風が起こる。煙立つところに人家あり、火により暖かい食事と暖がとれ、家族に和が生まれる」ことを表現している。山や森林など借景となる風景が少ない高緯度の欧州故に、壁で囲い、空を借景とした屋根の無い家のような形をした庭が発展したのだろう。信仰山の山上にあるローズガーデンには裸婦彫刻が施された石鉢が置かれている。そのせいか天女が舞う聖地にいるような気にさせられる。海抜838mの四明岳を中心として作られた庭なので、雲は上空を通過して行くが、見晴らしの良い山上にいるので、風の中にいるような、風に乗っているような気持にさせられる。心地よい風を感じられる山上に日本人好みの印象派絵画を展示し、庭に絵の中の風景を画いているので、絵画の中にいるような気にさせられるだけではなく、そよ風との相乗効果で、時代の流れに乗っているような気にもさせられる。