東大寺南大門付近に睡神社を包み込む池庭と吉城川の流れを雄大に見せる石組がある。いずれも神体山である御蓋山を心に取り込むよう作られている。池庭の周囲にはアカマツ、クロマツ、クロガネモチ、モッコク、アセビ、カエデなどが育ち、睡神社にはイチョウの大木が育っている。池の中之島に橋が架かり回遊できる。中之島から東南に御蓋山を拝め、西北に東大寺南大門が拝め、それぞれが池に反射している。若草山、花山をも借景にした贅沢な庭で、池を取り囲む護岸石の中には頭が平たい神の着座席があり神域庭だと感じる。借景を持つ大名庭園と同じ構成だが、石の色が大名庭園のような美しいものではなく、黒系統になっているので伝統的デザインだが近代の作品なのだろう。御蓋山から流れて来た聖水を流す吉城川の河川にも石組がされている。奈良春日野国際フォーラムの庭から流れ出た部分、そして睡神社近くの川の流れを作る石組が力強く見応えがある。深く浸食された川底に澄んでいない水が流れている。浸食された深い谷間に水が流れているので、豪快な流れに見える。睡神社近くの川には亀島が作られ、瀧のコロコロとした音が心に響く。いずれも純朴な男性的な雰囲気、力強さがあるので神域の入口にいるように感じる。江戸時代の作品だろう。いずれもエネルギーを秘めた庭で、そのエネルギーの源を御蓋山に求めている。祈りは祈りが実現したら失うもの、得るもの、損切で得ることが出来るものを考慮した上で行うものであり、いわばすでに決断したことを神に告げるための儀式である。これらの庭は祈りの姿を見せているように思った。