びわ湖大津館イングリッシュガーデン

赤レンガと木塀で囲まれたボーダーガーデン(辺境園)に足を踏み入れると日本庭園と異なる雰囲気がある。しかし隣接する日本美あふれる大津館は遥拝先を持っている。西約12.5km(京都)平野神社、途中に相国寺山門跡付近を遥拝している。よってボーダーガーデン東側から直線道に沿って西側の大津館を仰ぐことは平野神社、相国寺山門跡を遥拝することに通じている。東は約50km先の鈴鹿山脈の鎌ケ丘山頂に向いている。南は約133km先の熊野本宮大社大斎原を遥拝している。南の遥拝線上には東大寺境内もあるので、大津館に平行なボーダーガーデン東縁の道に沿い南の琵琶湖を望むことは熊野本宮大社、東大寺を遥拝することに通じている。神の通り道を調べて見ると(京都)大沢池にある天神島の社(やしろ)傍らの御神木ツブラジイと(静岡)久能山東照宮を線で結ぶと、仁和寺本坊、京都御苑北側の近衛邸跡、吉田山山頂点付近、比叡山、そして大津館とボーダーガーデンを通過した。ボーダーガーデンの北から南を見ると赤レンガの上に音羽山が見え、ノットガーデン(結紋園)への出入口に琵琶湖の湖面が見える。広い琵琶湖上空は水蒸気の上昇で天空の変化が激しく常に風が舞っている。湖面の波も比較的大きい。広い琵琶湖の手前に芝面が、湖の先に借景の音羽山がある。天井の無い家のような庭だが、庭の外は人力で押さえこむことができない大自然だ。大自然に潰されそうな不安定な情景がボーダーガーデンの美しさだ。ノットガーデンもボーダーガーデンと同じく幾何学模様庭園だが庭石を置いていないためか、大自然に囲まれているためか、結び目を模した大刈り込みが大自然に呑み込まれそうな流動美となっている。ビル群の風景にも同化している。ランドスケープガーデン(風景庭園)は東の築山に登るような起伏感あふれる地勢があり、庭中央に睡蓮池、その池の真ん中に太鼓橋が架かる。結婚式用礼拝堂(チャペル)があり、たくさんのバラが花を咲かせ、幸せに満ちた情景となっている。スイレンの花がモネ絵画のようで、びわ湖周遊の大型観光船ミシガンが借景を日本離れした風景に見せる演出をしている。太鼓橋の上から東を見ると睡蓮池、その周囲を囲む狭い地面、大きな琵琶湖面、琵琶湖を囲む山々が見える。家の中にいるような庭から琵琶湖面を通る風、波、雲など大自然の動きが見える。ちまちまとした小さな彩(いろど)り鮮やかな花が良い。黄色、オレンジ、紫、赤紫の花、そして白いスイレンの花。手入れの行き届いた庭が家の中にいるように感じさせる。屋根の無い、低い壁の家の中から大自然を眺めているようだ。ベンチに座ると大自然の軽やかさを感じる。風の吹く爽やかさではない、広い空を借景とした軽快さがここち良い。

庭情景を易経で見た場合「21火雷噬嗑(からいぜいごう)」口の中の異物をかみ砕いて行くように、庭が借景風景を取り込もうとしているが、消化できない、排除できない借景風景があるとも読める。或いは「64火水未済(かすいびせい)」水の上に火があるように庭が完全な姿となっていない。未完成の弱さと強さがあるようにも読める。やはり幾何学模様で表現した家の上に大自然が広がる庭なので、借景と庭を切り離して見せる「37風火家人(ふうかかじん)」がふさわしいと思う。火が燃えると風が起こる。煙立つところに人家あり、家の中心は火が燃えるところ。火により食事と暖がとれ和が生まれる。家人それぞれの立場の者が、その立場にふさわしい言動を取れば火が燃え上がり、風が起きるように一気に家は発展する。そのためには内部を整え、家人の和を生む必要がある。それを表現した庭だと思う。表情豊かな琵琶湖に隣接した庭が少ないなかで、この借景庭を作り上げれたということは、未完成感はあるが部屋の中から自然を楽しむ雰囲気が作れるイギリス庭園の優れた点だと思った。