奈良市ならまち格子の家

1992年竣工の伝統町屋を再現した建屋と庭は、かつて東大寺・興福寺と比肩した元興寺の伽藍跡にあるので、神佛の通り道に包まれている。御蓋山頂上から直線2.14㎞、春日山原始林の清々しい風も届いている。蔵と離れの間の小さな庭は主にコケ面、ササ面、幹の細いアカマツ3本、ナンテンを楽しむもので、蔵に向かって右側には真っすぐに立つツクバネガシのような木がいく本か植えられ、その脇にはモチノキのような木が、蔵に向かって左脇にツバキが植えられている。樹木を風が通るように育てているためか、青空が見えるためか、地面の上に風が通る構造になっているためか、庭石を置いていないためか軽快なものになっている。中庭は礎石を並べ、礎石と礎石の間に角形石の平面を上面にして敷き詰め、通路としたもの。建屋通路と平行する、この流れるような通路石組は中庭に下りて移動することを勧めるもので、風が中庭を通り抜けていることを視覚的に見せている。緑鮮やかなヒメリュウ面と苔面にアカマツ、ナンテン、シダなどを植えている。離れに向かう建屋通路は登りとなっていて離れを特別な部屋とし、御蓋山の裾に向かうことを暗示している。狭い中庭に大きな礎石と角石で通路を作り、緑鮮やかなヒメリュウ、樹皮が美しいアカマツを見せ、伝統と現代を合体させたような、新しい奈良を感じさせるものにしている。しかし本質は神体山の気に包まれたならまちに、元興寺の庭と同じく神の通り道に沿わせ、風と共に神が通過していると感じるようにしたものだ。神の通り道がない所に同じものを作ってもこれほど美しくならないと思った。