楽々荘

爽やかな沢庭

和館、洋館など創建当初の建屋は愛宕山山頂に向き愛宕山を遥拝している。庭は愛宕山を借景としている。現在は周囲にビルが建ち並び愛宕山及び庭を取り囲む山々が十分に見えなくなり、更に庭の一部を潰し旅館建屋を建てたので、和館、洋館側から庭と愛宕山を見るより、池の方から和館、洋館を見た方が美しい。洋館のバルコニーから愛宕山が見えるポイントのみが創建当初の美しさが垣間見られ、愛宕山遥拝庭だと感じることができる。楽々荘は瑠璃光院を建てた田中源太郎が自身の生家を改築し築庭したもので、瑠璃光院が山中の陰の庭とすれば、こちらは沢池を庭の中心に配した陽の庭。深く掘り込んだ沢池が愛宕山を高く見せ、愛宕山を水源とする聖水が枯山水の泉から沢池に流れ込む主旨となっている。実際の水源は建屋近くの手洗い鉢と沢池の中に置かれた川水の流入口からなる。手洗い鉢に注がれた水は沢を通り沢池に注がれている。池に大量の川水が注がれ、水が澄んでいる。沢を易経下卦の沢と見做し、上掛に天候の変化で強調される天(空)、沢(突然のにわか雨をもたらす雲)、火(太陽)、雷、風、水(雨雲)、山(愛宕山)、地(芝面)を当てはめ、相国寺方丈裏庭園の記事で述べたような象意、天候の変化が楽しめる。しかし相国寺方丈裏庭ほどの重厚さはなく、あくまで軽快な庭である。沢池の水は透明度が高く清々しい。池は淀むことのない流水で、初々しさがある。七代目小川治兵衛(植治)が作庭した庭なので、清水が流れる沢に降り注ぐ太陽光の変化により表情が変わることを楽しませている。爽やかな沢は色気がある。今は、周囲のビルの林立で借景の愛宕山が影を潜め、爽やかさが強調されているが、本来は借景の愛宕山の愛宕神社に思いを馳せ、巫女神舞を連想するための庭だろう。