見学できる旧御所の客殿建屋が老朽化しているので正確な遥拝先は特定できないが、第一候補に南の熊野本宮大斎原が挙げられる。客殿中心と熊野本宮大斎原を線で結ぶと聖護院境内‐高台寺方丈と庫裏の間‐泉涌寺霊明殿‐伏見稲荷境内‐大和郡山城天守台を通過する。この線の両側には多くの聖地があるので、いずれかの聖地を遥拝している。熊野本宮大社大斎原中心と(福井)若狭国一之宮若狭彦神社上社を結ぶ神の通り道は日本一強力な神の通り道だが、この線は実相院の西、約300mの山中-八坂神社西楼の西10m-泉涌寺即成院-法音院-伏見稲荷東側の山林-伏見城二ノ丸跡-(奈良)秋篠寺十三社-郡山城西御門跡を通過する。客殿西側から池泉回遊式庭園を通し、西の山を眺めることは強力な神の通り道を眺めることに通じている。そこにアカマツを大木に育てれば庭が見違えるように美しくなると思う。韓国洞華寺中心と比叡山戒壇院を線で結ぶと客殿を通過した。戒壇院付近には根本中堂、大講堂、東塔があるので、洞華寺と延暦寺を往来する仏の通り道に実相院はスッポリと入っている。客殿東側から枯山水庭を通し比叡山山頂を望むことはこの仏の通り道に沿って比叡山を望むことに通じている。現在、客殿から比叡山山頂方向にはモミの大木があり、比叡山山頂風景を遮り、山頂を十分に見させてくれないが、モミ、サクラの一部の枝を掃い比叡山山頂を見せるようにすれば、美しさが倍増するだろう。モミの一部の枝を掃い、比叡山山頂を十二分に見せ、正伝寺庭園のように塀を真っ白に塗り替え、更に白砂面をギラギラと輝かせれば、易経「61風沢中孚(ふうたくちゅうふ)」を表現した庭となると思う。孚は爪で子を掴む形をした字。親鳥が爪で卵を抱き温めるのは親の子に対する愛以外の何物でもない。気安く使うことができない誠意という言葉を内に秘めた庭となる。正伝寺庭園は血天井を意識させながら白砂庭を通し比叡山を見せることで、鑑賞者に徳川家への誠意を迫る庭だった。白砂庭を輝かせるほどに今以上に迫力ある庭になると思う。或いは、風を感じさせる大木となったモミの木があるのでこれを生かし、比叡山を遮る枝を掃い、山頂を十二分に見せることを前提に、円通寺庭園のように地面の全面を苔面とし、塀手前に大刈り込みを配し住宅などを見えないように目隠しすれば、太陽光の反射を押さえる苔面上に風が通っていると感じられるようになるので、比叡山山頂が更に美しく鑑賞できると思う。苔面とモミの間に比叡山山頂を見せた風景に変えると易経「53風山漸(ふうざんぜん)」を表現した庭になると思う。徐徐に変わりゆく比叡山の色を楽しませ、季節の変化をダイナミックに感じさせ、京都人の信仰の山をゆったりとした気持ちで心行くまで見せることで、手段を選ばず目的に達する道は邪道で、進むべき正しい道の上を、ゆっくりと順序どおり進み、目的に達するのが正道だと語ってくれる庭になると思う。円通寺と実相院は同じ岩倉の地にあるので、円通寺庭園を習った方が比叡山を美しく鑑賞できるのかも知れない。円通寺は客殿から首を約15度左に捻って比叡山山頂を眺める。当客殿からは首を約15度右に捻って比叡山山頂を眺める。この差は心理的にどのような影響を及ぼすのだろうか。円通寺客殿から大比叡までの距離5.98km、当客殿から大比叡までの距離は5.03km、当客殿の方が大比叡まで近いところにあり、当客殿から大比叡を見ることは、韓国洞華寺と比叡山延暦寺を行き交う仏の線に沿って見ることに通じるので、円通寺で見た比叡山よりこちらの方が仏教的な美しさがあるのではないだろうか。過去にここにあった庭が気になった。