琵琶湖疎水が流れ込む庭池は白沙村荘橋本関雪記念館の庭池に似た構成となっている。藤棚下のベンチから鑑賞すると、対岸に多くのアカマツとクロマツが、その上に東山が、そして流れる雲と青空が見える。赤い肌を見せるアカマツは龍が天に昇る姿に見えるので、次から次へと何が起きるか判らない時代には、風に従順に乗る昇天龍のように、時代の変化に従順に乗り、チャンスを掴み、機敏、果敢な活動、決断を繰り返すことで大利益を得られることを見せる形だ。しかし、白沙村荘のように時代に従順に乗れる感じがしない。白沙村荘との違いは池を取り囲む護岸石が黒系統で、池周囲が芝面となっていること。当美術館本館と東山との間には比較的広い池庭、動物園、日本有数の高級住宅地、南禅寺塔頭があり、借景を遮る建物が少なく、多くの東山の峰が借景になっている。池護岸石が黒系統の色となっており、東山の多くの峰を借景とし、広く明るい空を持つので、庭が重く沈んだ感じがする。美術館本館は東に三井寺三重塔、西に二条城天守に向いて建ち、三井寺三重塔と二条城天守を結ぶ線は本館を通過するので、素直に三井寺の佛を迎え入れるはずの庭なのに、二股幹のアカマツが東山に向かって左、一本幹のアカマツが東山に向かって右、佛を迎え入れる雌雄の形に育てられたアカマツの位置が左右反対となっている。神佛を庭に宿らせる三尊石が見当たらない。そのせいかどうか、或いは動物園が庭先にあるからなのか理由は判らないが、東山に近い庭でありながら神佛が遊ぶ雰囲気にない。護岸石が黒系統の色のせいか、重く感じる庭池は闇を抱えた心に見える。その闇を抱えたような庭に太陽光が差し込んでいる。まるで闇を抱えた心に光が差し込むも、心は十分に明るくならない。そのような状態を表現しているように見える。企業法人の庭なので、企業の心、経営者や従業員の心に闇を作らなければ、その企業は強くなることを表現しているのかも知れない。七代目小川治兵衛が作った庭なので、闇の世界にいる芸妓の心に光を差し込めば、池底が示す心の底の朦朧とした世界や、水の動きが示す妖艶な心の動きが見えることを表現したのかも知れない。