生駒山からの地下水が力強く湧き出ているように見せる泉があり、滾々と湧き出る水が瀧と急流を抜け池へ流入している。建屋から築山に向け飛び石が伸び、続いて築山を登る山道が急流とクロスし美を作っている。この庭は現代庭園が追求して来たデザイン美の完成形ではないかと感じた。庭上部の湧き水部分は雷が轟くように力強く水を吐出し、庭中部の急流部分が風の流れを感じさせるので、易経に当てはめると前回の記事、原田城跡・旧羽室家住宅で考察した「31澤山咸(感じ応ずる)」の次に位する「32雷風恒(恒に変わらぬ道)」となる。雷は長男、風は雷に従う長女を指すので、築山の山道は夫婦の道に見える。夫婦はあらゆる組織の最小組織だが、他に夫婦の結束力、団結力、忍耐力、攻撃力、生産力を越える組織はなく、発展性に富む最強組織だ。人は父母という夫婦組織を人生の出発点とするので、人類の源でもある。現代庭園は巨大な石灯籠、巨石、水量の多さ、白砂などで力を誇示しているので、風神、雷神を表現しているのかとも思ったが、神社における祈りは夫婦道の歩みの中で発生する諸問題解決の祈りが多いので、庭に夫婦の道が画かれたと考えるのがふさわしいと思った。そこで夫婦の道につき易経から学ぶことにした。①感じ応ずる感情の高ぶりで一緒になることを決意した男女はお互い心変わりをしない誓を立て結婚し、家族を作る。結婚生活は組織生活のスタートであり、社会を公人とすると、公人の体中にある細胞のように社会の各組織と密接な関係を始めることになる。夫婦は行動前に熟慮を重ね、夫が決断し、妻が従う。いかなる困難が降りかかろうと、この基本は変わらず、対応、改善にて難局を乗り越え続け、夫婦の道を続けることになる。進む道が道徳にかなった正しいものであれば利を得ることができ、家を発展させることができる。結婚を決めるまでの感情の思行くままに恋愛を楽しめる時とは違い、婚約と同時に社会的責任が発生し、すべての行動は思慮を持って行わなければならなくなる。夫婦の道は物事に臨機応変に対応するため曲がりくねるが、夫婦が別れない限り道は守られ続け、永遠につながれ続ける。そのような関係なので、新婚生活を始めると相手を束縛したくなり、相手の世界に深く踏み込みたくなるが、相手に過度な要求をすることは避けるべきである。二人の信頼ができれば周囲の人との人間関係の構築へと進み、共通目標を持つことで社会に認知されるようになる。社会に認知され活動すれば、一人だった時に比べ格段に大きなことが行えるようになり、自身が何倍も大きい人物となったと錯覚し、自信過剰や慢心にて浮気心が生じやすくなり夫婦の道を外してしまう恐れがある。それらの危機を乗り越えると二人で何か新しいことに取り組みたくなるが、往々に獲物がいない所に狩りに出かけるようなことになり空振りする。中年時代には豊富な社会経験を基に大成功を求め勝負に出たくなるが夫婦の道にそのような冒険は似合わない。熟年になり仕事から引退した後に、現役と同じような行動を取れば夫婦の道が分解してしまう。夫婦の道は巨大な社会の一員としての道であり、自分たちだけの世界を作る方向に進むのは危険だ。どこまでも社会的、道徳的責任を果たすための恒に変わらぬ道であるべきだ。②夫婦組織の優れたところは二人の実力範囲内のことを目標とすれば必ず実現できること。逆に言えば二人して実力以上のこと、分限をわきまえないことに口を出し、手を出してはだめだということで、実力を越えたことに口を出し、手を出してしまうと目標到達ができないことにいら立ち直線的な暴走が始まり、周囲の人との親和関係を失い孤立してしまう。二人して確実に到達できることだけを目標に掲げ奮闘することで周囲の応援を得ることができ、社会的信用が得られる。夫婦組織は思わぬ力を内在させているので出過ぎれば確実に禍根を作ってしまう。③目標到達できると豊かになる。豊かになった勢いに乗じ実力を越えて出過ぎると財が減るので、争いを避け、節約に努め、公明正大を心掛け、油断せず、次に起きる危機に備え現状維持に務め財を貯めておく必要がある。④夫婦組織は社会への影響力が大きいので、その反動で驚くようなことが頻繁に発生する。事故、事件に遭遇すると出費が発生する。財を蓄えておくなど備えがあれば、問題が解決できた時に談笑で過ごせる。⑤目標を立て邁進できる実力があり、公明正大な行動が取れ、富があり、驚くような事に対応できる実力が備わると、往くところ往くところで利が得られるようになる。失っていたものが帰って来るなど喜びが続く。⑥堂々とした実力を備えた夫婦となれば名誉が付いてくるので、争いごとは避けなければならない。訴えられても争って勝とうとは思わず、解決しようとは思わず、中途半端に見えるような妥協点を見つけ内々で収め、自らの名誉を守りつつ訴えた人を傷つけないように配慮すべきである。⑦訴えられたことで損をしても、内々で収まったことで、やがて損の補填がされるような益を得る。風が雷の速度を速めるように、妻の助けで夫がより多くの利益を得るようになる。妻の情報や助言が大きな作用を生む。⑧女は心で人物評価を行い、子供を生んだ女性は微妙な変化にも気付くので、男はその助言を基に厳粛に決断を下すようになる。成功を続けると慢心が生じるので、心が散漫とならないように気を付け、妻の助言にて熟慮を心掛けなければならなくなる。⑨栄枯盛衰は世の常、変化の時に女の一言で家が散り散りとなってしまうことがあるので、それを防ぐために家に先祖の霊を祀り、墓に先祖の霊を眠らせ、家族の心を一つにまとめておかなければならない。⑩世の中は明日、何が起きるか判らない、明日はどんな風が吹くのか想像できない。風はあらゆる隙間に入り込むため逃げられないので、世間で大きな風が吹けば、風となった命令に従い、時勢風に乗るしか生きて行けなくなる。吹いている風が正しいかそうでないのかを夫婦で見極め、正しい風ならば付き従わなければならない。正しくない風だと判断すれば、気転をきかせて立ち回り、気抜かりなく危険対策を取り、風が吹き止むまで待つしかない。夫婦間においても夫が正しい風を吹かせているかどうかを妻がチェックし正しい風に矯正しなければならない。時勢に乗れたからと言っても自分の願望が通る訳ではないので、時代の流れが変わる時には謙虚に過ごさなければならない。⑪妻の機転と助言にて風に乗り、うまく時代の変化を乗り越えた先には、妻の発言力が助長してしまうという難題が待ち受けている。もし妻がやってはいけない行動を取る、言ってはいけないことを言ってしまうと、思わぬことに発展してしまう。良い結果となる可能性もあるが、詐欺や脅迫に遭うようなことにもなりかねないので、夫婦で熟慮した正しいことを風にして吹かせるよう気を付けなければならない。⑫最後は、うまく風を使い木から火を起こし食物を作るように、新規事業の開始、或いは家督を相続させるなど、発展させた夫婦の道を更に発展させる、或いは継続させる行動を執り、築いたものを継続発展させることになる。夫婦は恋愛の延長線上にあるので、愛情を作り続け、楽しく過ごすためにあるように見えるが、その実、上述の通り社会の一員として社会的責任を果たすためにある。子供を産み育てるなどの苦労はあるが、苦労以上に報われる。夫婦の本心は自らの家庭が利益を得ることだが、利益獲得のために暴走してしまえば周囲との人間関係が崩れてしまう。大きな利益を得たら慢心にて気が緩み夫婦の道が見えなくなってしまう。あくまで夫婦の道は社会の一員としての道であり、道徳的行動を心がけ、道を踏み外さないことで永続させるべき道である。