爽やかな庭
庭の一部が撤去されているので、元あった全体の姿の想像はつかないが、築山を設けず、平らな地面に多数の樹木を育て、こずえの間から揺れ動きながら苔面にこぼれおちる太陽光を楽しむ足元を見させる庭だ。池が外の水路とつながっているようで、池水面がとても低い所にある。庭に入り平面庭の飛び石を伝って池の傍に至ると、深く掘られた池に驚かされる。山の中を歩き進んでいると突然、深い森の中に池が現れて驚かされたと同じような情景だ。泳いでいる鯉を目で追っていると池底に青緑の泥が敷かれていることに気が付く。築地塀も空と同じ青色に塗られている。この庭は露地(茶庭)を発展させたもので、そこに深く掘りこんだ池を設け、茶室に招かれた客に驚きと感動を与えるためのものだと思う。遥拝線の観点から見ると、伊吹山山頂と(奈良)五条猫塚古墳中心を結んだ線が池を通過するので、庭池が神の遊ぶところになっている。しかし主屋、倉庫は伊吹山山頂に対し約1度東方向に外れているので、遥拝庭ではない。武家庭園が取り入れていた遥拝、易経表現から脱却したところで美を作る近代庭園の流れを感じる。すぐ近くの中江準五郎邸の庭と根本的なところで異なっている。池にはコンクリート製の橋が架かり、樹木を直線的に伸ばし、直線にカットされた石が飛び石に使われている。庭の真ん中に井戸があり、大きな石灯籠が立っている。自然界ではありえない形の素材や物を使い、樹木を略真直ぐに伸ばし、自然の山の中で見ることがない風景としているが、直線の多用で庭がスマートになっている。甘美な風が通る爽やかさと良く似合っている。