海底噴火炎を画いた庭
この庭の中心石は海底火山により海底隆起した先端の噴火口から噴出する炎である。炎の先端は大きなうなりの海浪の頂点から飛び出す勢いがある。中心石を支える石組みの石々はその角を中心石の先端に向けているので、燃え上がる炎のさまを緊迫して見せる。炎石(中心石)傍に立つ石灯籠は龍宮が炎の近くにあることを暗示させる。通常の枯山水庭ならば聖なる中心石付近から湧き出た枯水が庭の枯池に流入するように見せているが、この庭に敷かれている細かい粒度の海砂は海底を表現し、海底の砂を突き破って隆起した海底火山の様子をより感じさせるためのものとなっている。炎石(中心石)の底部分にあたる噴火口から流れ出た溶岩が鑑賞者に迫って来る。溶岩流の末端には切石や上平面石を並べて置いているが、切石や上平面石は盆栽を置くためのもの。冬、開花したウメの盆栽を置けば葉が生える前なので噴火による噴出物が散りばめられたように見え、春、サツキの花が咲く季節に花咲くサツキの盆栽を置けば、噴火口から燃え上がる炎石(中心石)を迫力もって見せ、夏、マツの盆栽を置けば、炎天下におだやかな炎石を見せることだろう。炎石(中心石)から離れたところの海砂の上には炎石(中心石)になびく向きに多くの飛石が置かれ、滑らかな海石にて静かな海底を演出している。庭の風景を易経に当てはめると、海底火山噴火炎の上に海水があるので、消すべき火の上に水がある「第63水火即済」となる。有るべきところに有るべきものが存在する。現状維持こそが大事だと教えてくれている。火山により災害が起きないことを祈る庭でもある。
鹿児島湾中央には日々噴煙を出す桜島があり、湾内海底には桜島にマグマを供給する姶良カルデラがある。北には活火山の霧島山、南には開聞岳などの南薩火山群、鹿児島湾南の海中には阿多カルデラ、屋久島手前には海中活火山の鬼界カルデラ、更に南には口永良部島と活発な火山群が列をなしている。火山が多い薩摩にふさわしい庭だ。知覧は屋久島の管理をしていたので、庭は屋久島への航海途中の鬼界カルデラをモデルとしたのかも知れない。領主が住んでいた御仮屋中心(現在、家庭裁判所と検察庁の間)から亀甲城跡頂上までは833m、両者を結ぶ線上に当庭があり、その線に平行に当邸宅が建てられている。邸宅は御仮屋と亀甲城を遥拝しているが、知覧七庭園の共通点である庭を介しての母ケ丘、亀甲城山への遥拝はしていない。当邸宅の庭に面する奥の部屋と11.6㎞北北西の金峯山山頂近く金峰神社とを線で結ぶと、線上に炎石(中心石)や石灯籠が掛かるので、炎石(中心石)、石灯籠は来訪した領主が邸宅の奥の部屋から金峰神社を遥拝する目印の役割も兼ねていたのかも知れない。庭は領主の立場を考慮し遥拝先に注意を払ったものとなっているが、庭そのものは薩摩藩の剣術、示現流のように鑑賞者に太い一撃を感じさせる豪快な庭である。知覧七庭園に共通するが、豪快な庭に切石や上平面石をさりげなく置き盆栽を乗せて楽しむ繊細な面もあり奥ゆかしいものがある。