白沙村荘 橋本関雪記念館

庭に踏み込むと、京都から別世界に迷い込んだような、不思議な気持ちにさせられる。草花が多いので一見、田舎風景に見えるが、歴史ある巨大な石塔がそびえ、魅力的な石塔が散りばめられ、石仏が並べられ、庭石から地下エネルギーを感じ、建屋と池が一体となっているので、冴えた芸術家の感性にて建屋と庭が造られたと感じる。明治庭とは違った大正、昭和初期の豪邸雰囲気が漂っている。橋本関雪が、ここで活躍した31年間、人々の生命財産を危険にさらす予測不可能な恐慌、事件、戦争が次々と起きた。第一次世界大戦勃発による好景気→第一次大戦終結後の不況→関東大震災→震災恐慌→昭和金融恐慌→世界恐慌→山東出兵→張作霖爆殺事件→満州事変→支那事変→大東亜戦争(第二次世界大戦)など、多くの人が犠牲となり、一部の人が富を増やした。橋本関雪生誕140周年絵画展を鑑賞し、関雪は事件・戦争が次々と起き、次に何が起きるか判らない時代に生きた人々の表情を画き続けていたのだと思った。大正から昭和初期の人々は常に緊急事態に備え、頭を白紙にし、すぐ対処、対応行動が取れるようにしていた。そのような人々の表情を絵画の中の人物、動物に画いたと見た。庭に目をやると、地面から湧き出したような水が渓流となり神社の放生池のような池に注がれ、池水が地面を潤わせ多くの樹木、草花を育てている。まるで今の時代、水が湧き出すように事件・戦争が次々と起きるが、こぼれるほど蓄えられた池水のように、多額の富が社会に蓄積され、その富は戦争資金、復興資金へと変わり皆を潤す。湧き出し、蓄えられ、皆を潤す富の循環を見せている。存古楼の庇下から東山を仰ぐと池の対岸に多くのアカマツが、その上に京都五山送り火「大文字」が、そして流れる雲と青空が見える。赤い幹肌を見せるアカマツ群は龍が天に昇る姿に見えるので、次から次へと何が起きるか判らない時代には、風に従順に乗る昇天龍のように、時代の変化に従順に乗り、チャンスを掴み、機敏、果敢な活動、決断を繰り返すことで大利益を得られることを見せている。近代になり、水が湧き出すように技術革新が続き、次々と富が創出されて来た。その富はプールのような証券市場、債券市場へと流れ込み、蓄えられ、還流し皆を潤している。このような時代に人々が行うべきことは、龍が風に乗るように、時代の波に乗り、新しいこと、革新的なことを行うべきだと訴えているような気がした。