西明寺 蓬莱庭(1)

本堂、二天門、三重塔は共に約327km西北西の出雲大社を、約4.7km北北東の多賀大社本殿を遥拝している。本堂内の多くの仏像と二天王立像は出雲大社を、三重塔内の大日如来は多賀大社を遥拝している。多賀大社本殿と熊野速玉大社速玉宮を結んだ線は境内西側を通過する。蓬莱庭は本坊内から熊野本宮大社大斎原を遥拝するための庭だったと思うが、本坊を元の建屋の向きに合わせず建替えたようで、現在は純粋な仏教庭園となっている。パンフレットで「薬師如来、日光菩薩、月光菩薩の三尊仏を表す石組があり、心字池には折り鶴の形をした鶴島と亀の形をした亀島がある。」と説明されている。庭にたくさんの如来、菩薩を模した石が置かれている。山中にあるので山頂から吹き下りて来たゆるやかな風が庭を通り抜け心地よい。爽やかな風のなかに仏(仏石)がおられる。鶴島は水上に立つ炎のような石組となっており、その背後、築山上にも炎のように立つ石があり、移りゆく時間が表現されている。時が移りゆく表現にて、庭の仏石が動いてこちらにやって来るように感じる。仏が鑑賞者の心の中を通過して行くように感じさせている。庭の奥には茶色系の暗い色の石、池周りは武家庭園で見られる黄色系の明るい石、庭出入口付近の池護岸石は丸めの柔らかい形の明るい石となっているので、深山幽谷から渓流を通り流れてくる枯山水表現を庭石の色の変化にて強調している。庭中央に高木のスギ、その左隣にモッコクのような高木、庭を取り囲むスギ、ヒノキの高木が天空を遮っている。起伏の大きな築山に零れおちた光が苔面を美しく見せている。カエデ、サルスベリ、マツ、マンリョーなど柔らかい感じの樹木を見せてくれる。作庭時期が蓮華寺庭園の11年後なので、儒教易経を吹き込んだと思う。大木で庭を囲み天空を見せず、山を見せず、地を固めて作った低い築山の底に沢水(池)を見せる庭なので、易経「19地沢臨(ちたくりん)」が当てはまる。地の水が流れて沢に入り、沢の水が地に潤いを与える。春たけなわのようにこれから植物が育ち始め、あらゆる動物が活動を始める。そのようなエネルギーに満ち溢れた庭で、風がそれらの活動を助けている。あちこちに如来や菩薩を模した石を見せ、その傍を通り抜けた若々しい仏の風が鑑賞者の心を通り抜けて行く。熟成感あふれる仏教庭園だ。