伊吹山遥拝を基本とする近代庭園
邸宅の門と客殿玄関は鬼門方向に開かれ、客殿は表と裏鬼門両方を拝し、客殿の裏鬼門側に庭がある。家相を無視した向きに門や玄関を開け、客殿の裏鬼門に庭を配している。これらはすべて伊吹山を遥拝するためで、邸宅内の建屋方向はすべて伊吹山山頂付近に向けてあった。管理者の方から「藤井彦四郎は庭てっぺんの三角の石の上に座り、庭越しに屋敷を見るのが好きだった」と説明を受けた。その通り逆三角石から庭を介し客殿方向を見た風景が一番綺麗だし、客殿屋根のすぐ右側には東北方向約35㎞先にある霊峰伊吹山(標高1,377m)が見える。逆三角形石は伊吹山遥拝ポイントとなっている。庭池は伊吹山を高く見せる効果を上げている。電信柱、電線、他の建屋がなければ客殿屋根右端とヒノキの玉チラシとの間に見える伊吹山はより神々しく見えることだろう。雪化粧の伊吹山景観は格別なので、冬の庭もすばらしいことだろう。伊吹山の気を築山で受け、留める庭なので、三角石から庭を鑑賞することは伊吹山の気を五体で受けることになる。次に客殿、主客間の上段の間に座ることは伊吹山を背に庭を鑑賞することになり、霊峰伊吹山を背にして下段に座る人と応対できるのでこれも理にかなっている。且つ下段に座る人の背後には美しい庭が展開しているので上段の人は優雅な応対ができる。近代庭園であるが、どこか武家庭園に似たところがあるのは上段の間に座ると、霊峰伊吹山の気を背に受けながら、伊吹山の気を反射する庭が見られ、下段に座る人と対応できる設計によるものだろう。そして客間の真正面、庭のずっと先には奈良ウワナベ古墳群、平城京東院庭園、薬師寺東塔があり、庭を鑑賞することは奈良の聖地を遥拝することに通じている。伊吹山山頂と薬師寺東塔を線で結ぶとその線は当邸宅主屋、ウワナベ古墳、平城京東院庭園を通過する。この線上に邸宅庭園があるので、地下水で満たされた清水の庭池は聖地間を行きかう神が遊ぶ庭の意となる。池の中に円陣を囲むように上面が比較的平らな石が置かれているが、それらの石々は神々の着座場所の意だろう。庭築山頂上の逆三角形石の平たな面は神が立つためのものだろう。日本武尊が立っているようにイメージさせるためだろうか。家相を犠牲にしても、自らの生活を犠牲にしても、身分の高い方を招くため、招待した客人に心地よく過ごして頂くため邸宅と庭園を作る。江戸武家庭園の設計思想を基に作られたからか、潔さを感じる。庭が高潔に見えるのも武家屋敷の思想で近代庭園を作ったからだと思った。