六三園

大富豪の視点で楽しめる庭

相場師、松井伊助が建てた屋敷庭園。気楽に入れる「がんこ和歌山六三園」で大富豪の世界が広がる庭を見ながら頂く食事は格別なものがある。駐車場から門前へ進む。道の左側に育つソテツが太平洋に面している和歌山にいることを実感させる。次に細長い池が視界に入る。護岸が黒い海石を組んで作られ、海水にて白くなった部分の高さを統一することで、潮の満ち引きで水面が上下しているように見せ海磯に見せている。門の中の龍宮城に引き込まれる気持ちにさせられる。門を潜ると、玄関までの広場に大きな石が敷き詰められ、大きなライオン石の出迎えに驚かされる。庭門近くに大きな石塔(仏塔)が立てられている。庭門の入口を潜り、大きな石塔の脇を通り抜け、水源がある石山のような築山へ向かう。石山頂上付近には龍宮を連想させる石塔が斜めに立てられ、マツがふらふらと揺れているように植えられている。海磯を表現していた門前庭で連想した龍宮城が石山に設けられている。龍宮の水源から流れ出た水が沢川を抜け主屋南の大きな池に注がれるドラマが画かれている。池の周囲には富を誇示する巨大な雪見灯籠、大きな春日灯籠、大小各種の石灯籠が配されている。あちこちに立てられた各種の形の石灯籠はそれぞれが個性を発揮している。池護岸の石組を自然に組んだ感じとすることで、池に突き出して置いた大きな板状の石、薄石で作った石橋、巨大な雪見灯籠を際立たせて見せている。池の中に石杭を打って半島状に見せるデザイン性もある。池周囲を回遊すれば道端に置かれた大きな石に驚かされる。庭に用いられている大半の石は当時流行した黒系の石となっている。巨木となるクスノキを小さく育て、イヌマキをスギのように高く育て、ウバメガシを玉チラシに剪定し、高価なマツを程良い大きさに育てている。樹木を自在に操っている感がある。サツキ、ツツジの丸刈りを多く配置している。庭に花が絶えることのないようにしている。大阪城にあった鉄砲狭間石を利用した蹲もある。主屋内から庭を見ていると、山海珍味をふんだんに使った豪華で豊富な料理を眺めているようだ。池は富を蓄えた金庫のように見える。豪華なものを揃えることで、庭に餓鬼が住みつくことを防いだのだろう。池の傍に立つ赤く塗られた木組みの祠が邪気払いをしている。主屋の東北側には茶室があり、茶室周囲は大木で囲まれている。何もかもが揃っている。主屋内から庭を眺め、高い天と水池を見ていると易経「6天水訴」を連想する。本来、天が上に、水が下にありその風景は自然な姿に見えるが、天は上に上にと進むもの。水は下に下にと進むもの。天と水とは進む方向が違う。目指し進む方向が異なる者同士の争いは天水が違行するような愚かしいこと。争えば争うほどに溝が深まっていく。金持ち喧嘩せず、高額な石灯籠、コントロールして育てた樹木が表現する富と人材に囲まれ、川と池が表現する清水で水を蓄える姿から、大富豪は整った環境の中でひたむきに綺麗に富を蓄え続けるべきことを見せている。主屋の西側には地面をえぐるように掘り込んだ枯川表現の庭がある。水が流れない枯れ川と青空にて、天に逆らわない庭にて主屋南の池庭とバランスを取ったと理解した。明治、大正、昭和前半、易占が流行していたので易経を基に作庭したのだろう。大富豪の視点で楽しめ、豊かな気持ちにさせてくれる庭だ。