大渕池に半島状に突き出したところにある松伯(しょうはく)美術館庭はかつて近畿日本鉄道総帥住宅の庭、住宅門外側にある見晴らし良い庭、散策路がある神体山を拝むための山庭、美術館建屋の中庭、大渕池に隣接する斜面庭からなる。先ずは住宅門を潜った。藁葺の茶室周囲まで判らないが茶室は台スギ、ツバキ、ドウダンツツジ、アセビ、ササ、背の低いタケに囲まれ、更に庭の外側にクスノキの大木2本が有るので分厚い茂みの中にある。入口側から茶室への飛び石はなく、その道は客が通るためのものではないことを示している。アセビ、ドウダンツツジ、カエデなど季節の変化が判りやすい樹木を目立たせている。ヤマモモの白い幹、カエデの幹とそれに同期するマツの幹、ツクバネガシのような斑紋のある幹も見せている。サツキ、ツツジ、ハマヒサカキ、マンリョーなどから冬から初夏まで花が絶えない庭だと思った。真っ赤な葉のカエデが強烈に色付けしている。一番目を引くのは芝生面の上で餌を探す4羽の鶴の親子像、鶴はあるが亀石は見かけず、三尊石のような宗教色の強い石も無かった。いくつか頭が平たい石が鶴像の近くに置かれている。砂利が太陽光を反射し庭を明るくしている。閉鎖空間に動かない鶴像を置いたせいか、多彩な樹木の色あいにて絵画のようでもある。富を象徴する石灯籠はないが一度にたくさんの樹木を同時鑑賞できるので豊かさがある。季節を通じメリハリ良く葉、幹、花を見せる庭だと思った。住宅跡門外側の見晴らしの良い庭は枝垂れ桜が満開で、タケ、クスノキがあり昭和の雰囲気が漂っている。小さな山に登ると遠方に若草山が見える。ゴルフセンターのネットで御蓋山は隠されているが花山(春日奥山)が拝め、三輪山も見える。敷地内にクスノキの大木、満開のサクラ、山の西側にモウソウチクの竹林があるので、こちらも昭和を感じる。キンモクセイの生垣が目を引いた。5つの庭の共通点は樹木を自在に操り、昭和の雰囲気を守っている点だ。美術館建屋中庭のコンクリートで固めたプール池に真っ赤な金魚が泳いでいた。太陽光が十分に届かないので冷たく寂しい。清涼感と感傷的な雰囲気を漂わせている。大渕池に隣接する斜面庭は綺麗に剪定されたマツ林となっている。その中にヤマモモ、クスノキなどがあり、サクラ、ウメ、キクモモ、ミツバツツジ、リュウバイが花を咲かせ、住宅周囲のシラカシ、サザンカのような樹木による生垣の上に樹木が頭を出していた。庭石を置いていないのでマツ林を抜ける風が軽快で、伸び伸びしている。以上5つの庭は生き物である樹木の個性を引き出すことを重視している。タケ、ササで風の音を感じさせ、マツで風が通っていることを肌で感じさせ、若葉・紅葉・落葉そして花で季節を感じさせる。葉が美しい樹木は葉を、幹が美しい樹木は幹を、丸刈りが美しい樹木は丸刈りを、花が美しい樹木は花を見せている。豊富な樹木をリズミカルに剪定しているため、まるで芝生面上でオーケストラ音楽を聴かされているかのようだった。