純喫茶リエール(岡崎邦輔の別荘跡)
コーヒーを飲みながらガラス越しに、踊るような多数のクロマツ、アカマツが鑑賞できる。それらマツ群の中、庭東南の築山に春日型灯籠が立てられ、その背後に灰色の幹が真っ直ぐ伸びるモッコクが育てられている。春日型灯籠まで歩いて行けるよう飛び石が置かれている。春日型灯籠と建屋との間に井戸があり、少し掘り込んで玉石が敷かれている。雪見灯籠が置かれている。井戸は木の板で蓋がされている。春日型灯籠を庭の陽の代表とすると、井戸、雪見灯籠、小石を並べ枯れ小川としたところは庭の陰の代表。屋内から一つの視界の中、上下に陰陽両方を見せることで、庭に深みを持たせている。陰の部分を少し掘り込むことで陽の築山を高く見せている。掘り込みの周囲にサツキの刈込を設けることでさほど掘り込んでいないのに相当に掘り込んでいるように見せている。この陰陽世界を包み込むようにサツキの丸刈りを並べ、庭にリズムをつけている。おそらく元紀州藩の庭師が江戸時代の庭園設計思想をベースに作ったものだろう。心に残る美しさがある。コケ面が綺麗な梅雨の季節には飛び石や枯れ小川の玉石が濡れゾクゾクする美しさを見せてくれることだろう。庭石は平らな面を上面にした石が目立つ。この庭は身分制度を破壊する明治時代がやって来たことを喜びマツが踊っているように見える。倹約の江戸時代が終わり、戊辰戦争、西南戦争、日清戦争、日露戦争と戦争バブルが続く明治時代に浮かれ踊っているようでもある。作庭された時代を反映しつつも江戸時代の伝統をベースにしているので気品あふれている。庭の周りはウバメガシの大刈込で囲まれていた。マツとウバメガシが多い庭なので、大東亜戦争バブルで建った岸和田五風荘を連想した。すぐ近くの和歌山県公館の庭のマツに比べるとこちらのマツはずいぶん踊っているように見える。喫茶店として使われている建屋は約120年前(明治時代)に建てられたもの。マツの管理が行き届いていて爽やかだ。